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最高裁判所第一小法廷 昭和53年(行ツ)98号 判決

上告人

河本流水

被上告人

京都地方法務局嵯峨出張所登記官

沓水信太郎

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

仲裁判断に基づいて登記申請をするには執行判決を要するとした原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はなく、また、原審の訴訟手続にも所論の違法はない。論旨は、いずれも採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(藤崎萬里 団藤重光 本山亨 戸田弘 中村治朗)

上告人の上告理由

第一、被上告人が原審において、控訴棄却の反対申立てをし且つ第一審判決摘示事実を引用する云々との事実上の主張をしたかの如くにして原判決は下されたのだが、原審での第一回口頭弁論時(昭和五三年二月二三日午前一〇時)迄に斯くの旨を記載したる答弁書その他の準備書面が被上告人である被控訴人より提出があつたとするの該書面副本が控訴人である上告人に宛て送達されておらず且つその上告人は不出頭であつたのであるからして、仮に被上告人の指定代理人が斯く第一回口頭弁論期日に原審法廷で陳述したことがあつたとしても、それは「相手方カ在廷セサルトキ」というのに該るのであるから、この陳述は、訴訟法上その効力をもたないのである(民訴法第二四七条)。

而して、被上告人の指定代理人が陳述したことにはならないのに拘らず斯く陳述したとしてするの原審判決は不適式違法である。

斯ように解されねばならないことは、民訴法第二四七条が明文を以てその旨を規定しておるのであつて、之に反してまで全く異なる解釈を採ることでもあるならば、それこそ法律を無視するものであつて、許されない。

第二、御庁が右叙のゆえを以つて原審へ差戻の裁判をするというのならばとに角、そうでなくて、御庁において自判をするというのであれば、原審で上告人が控訴人として主張した事実を被控訴人は争はなかつたとしてのうえに立つて自判すべきなのである。

第三、原審判決付記理由は、その論旨において一貫性に乏しい。その理由は、次に述べるとおり。

1 意思表示を命ずる判決がその性質上直接強制に馴染まぬということは、原判決付記理由第一項第一段目に冒記して認めておる所である。

2 上告人が控訴理由として陳述したのは、之を茲に引用するほか、以下にこれについての補充をする。

(イ) 仲裁判断が確定判決と同視されることは、同法八〇〇条が明文を以て之を定めておられるのであつて、それが如何なる縁由や意義をもつものであるにもせよ、不動産登記法(以下不登法という)第二条中の「判決」という法概念に含まれる。

(ロ) 仲裁判断と雖も、其の手続中において裁判所が国家司法機関として協力監督することがあるから(民訴法七八九条二項・七九一条・七九二条・七九六条等)、それが国法に適合してなされたという保証がないということはない。

(ハ) 仲裁判断であろうと、凡そ、意思表示を命ずる判決が確定したときにその執行があつたとするならば之に別異に扱われることこそ不可解である。蓋し、該判決が確定したときにそれが強制執行したことになつて、確定後に強制執行をしようというものではないから、執行力をもたすと同時に斯く強制執行をしたとなるからであるが、仲裁判断にしても、それ自体これと同一の効力を有するとせられるし、爾後に強制執行をしなくてもよいものだから、執行判決を訴求しようとするにも、給付判決のうちの意思表示を命ずるのを除いてのものならばこれから強制執行をすることになるので、之を必要とはされるけれども、そうでないところの意思表示を命ずる仲裁判断では、該執行判決を訴求するの前提となる利益もないからそれの適格を欠くのであり、他に之と異に解すべき法律根拠は全くない。

第四、以上により、原判決の判示する理由は、明らかに法律根拠に欠ける違法のものであるから、早晩に破毀して相当とするの御裁判をなされることを切望する次第である。

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